個人事業主としてひとりで開業する場合、手続きそのものの費用はほとんどかかりません。お金がかかるのは、仕事に使う道具、集客、そして収入が安定するまでの生活費です。仕事の種類によって差が大きいので、自分の場合に当てはめて見積もってみましょう。
手続きにかかる費用
開業届と青色申告承認申請書は、提出に費用がかかりません。税務署に出すだけです。
法人にする場合は、登録免許税や定款の認証費用などがかかります。個人事業主なら、この分は不要です。
業種によっては、許可や登録に手数料が必要です。たとえば飲食業、古物の売買、美容業などです。始める仕事に許可が必要かどうかは、管轄の窓口で最初に確認しておきましょう。
道具にかかる費用
次に、仕事に必要な道具をそろえる費用です。
- パソコンやスマートフォン
- 業務用のソフトやアプリ(会計、請求書、デザインなど)
- 仕事に必要な機材や材料
- 作業場所(自宅、シェアオフィスなど)
すでに持っているものは、そのまま使えます。新しく買う前に、手持ちの道具で最初の仕事ができないかを検討しましょう。
ソフトは、無料プランや体験期間があるものが多くあります。使ってみて必要を感じてから、有料にするのでも遅くありません。
高価な機材は、リースやレンタルを使う方法もあります。最初から大きな買い物をせず、仕事が入ってから買い足すと、無駄を減らせます。
集客にかかる費用
集客の費用も、最初から大きくする必要はありません。
- 名刺(自分で印刷するか、安価なサービスを使う)
- ホームページ(無料のサービスや、1ページの簡単なものから)
- SNSのアカウント(費用はかかりません)
- 広告(必要になってから検討する)
最初の数件のお客様は、知り合いの紹介やSNSでの発信から得られることが多いです。広告は、反応を見ながら少額で試してから広げます。
ドメイン名や、レンタルサーバーには、年単位の料金がかかります。金額は選ぶサービスで変わるので、契約前に年間の総額を確認しておきましょう。
生活費と運転資金
見落としやすいのが、事業が軌道に乗るまでの生活費です。
売上が入るのは、仕事を終えて請求した後です。入金までに1〜2か月かかることも珍しくありません。その間の生活費と、事業の支払いを払えるだけの資金が必要です。
目安として、生活費の数か月分を手元に残しておくと、気持ちに余裕が生まれます。必要な額は、家族構成や家賃で人によって違います。
また、国民健康保険や国民年金、住民税など、会社員のときと違って自分で払う費用が増えます。会社員のときの天引きが、なくなる点に注意してください。
費用を抑える考え方
費用を抑えるときは、次の順番で考えます。
- 今ある道具でできるか
- 無料の代わりになるサービスはないか
- 借りる、レンタルで済ませられないか
- 売上が立ってから買えないか
ただし、削りすぎると、仕事の質や効率が下がることもあります。毎日使う道具は、安さだけで選ばず、使いやすさも見て選びましょう。
領収書は、購入のたびに保存します。開業前に買ったものでも、事業に使うなら経費にできる場合があります。取っておいて、あとで会計の担当者や税務署に確認すると安心です。
費用の見積もりは、一度で正確に出す必要はありません。まずは大まかに書き、3か月ごとに実際の金額と比べて直していけば、精度が上がります。
見積もりのコツは、「最低限」「ふつう」「余裕あり」の3つのパターンで考えることです。最低限の費用で始められるなら、手元の資金に応じて、段階的に整えていけます。
また、仕事を始めてから発生する費用は、売上が立った月に合わせて払う形にすると、資金繰りが安定します。支払いの時期を、収入の時期に近づけるイメージです。
固定費(毎月決まって出ていくお金)は、少ないほど身軽に動けます。契約するときは、解約の条件も見ておきましょう。
資金の集め方を考える
手元の資金だけで足りないときは、他の手段も検討できます。
- 自治体や商工会議所の創業支援、補助金、融資の制度
- 日本政策金融公庫などの創業向けの融資
- 家族や知人からの協力
補助金や融資には、条件や申請の期限があります。内容は年度で変わるので、公式サイトで最新の情報を確認してください。
融資を受ける場合は、返済の計画を立てることが大切です。毎月の返済額が、売上の不安定な時期に重荷にならないか、慎重に見積もりましょう。
借りないで始められるなら、それがいちばん身軽です。無理のない範囲で、自分に合う方法を選んでください。
見落としやすい費用
開業の見積もりで、見落としやすい費用があります。
- 国民健康保険料、国民年金保険料(会社員のときは給与から引かれていた分)
- 住民税(前年の所得に対してかかるため、開業した翌年に重く感じる)
- 事業税(所得が一定額を超える場合)
- 会計ソフトや請求書ツールの月額料金
- 銀行の振込手数料
とくに住民税は、前の年の所得に基づいて請求されます。会社を辞めた直後は収入が減っているのに、請求が来るため、負担を重く感じやすい項目です。
こうした費用は、毎月は少額でも、年間で見ると大きくなります。開業の見積もりに入れておくと、資金繰りの見通しが立ちます。
保険料や税金の金額は、住んでいる自治体や収入で変わります。役所の窓口や、公式サイトの試算ツールで目安を調べておきましょう。
次にやること
次の3つを紙に書いてみましょう。
- 手続き、道具、集客、生活費の4つについて、半年分の金額を見積もる
- それぞれを「今すぐ必要」と「後から足せる」に分ける
- 「今すぐ必要」な合計が、手元の資金に収まっているか確認する
収まらなければ、道具や集客の一部を後回しにします。収まっているなら、余裕の分を予備費として残しておきましょう。
開業前にかかった費用の領収書は、捨てずに保管しておきます。事業に関係する支出であれば、開業費として扱える場合があります。迷うものは、税務署か税理士に確認してください。
開業直後は、費用が先に出て、売上があとから入る時期が続きます。費用の見積もりに加えて、入金のスケジュールも一緒に書いておくと、いつ資金が苦しくなるかが見えます。月ごとの収支を表にして、半年先まで予想しておくと、手を打つ時期が分かります。
費用を記録する習慣も、早めにつけておきましょう。買ったものの名前、日付、金額、事業に使う理由を、レシートの裏にメモするだけでも十分です。あとで帳簿に入力するとき、何のための支出か迷わずに済みます。記録が積み上がると、次の年の見積もりにも役立ちます。
税金や保険料の額は、収入や自治体で変わります。詳しくは税務署や役所の窓口、専門家に確認してください。




